「大変申し訳ございませんが、ご年配の方に譲っていただけないでしょうか。洋食で我慢して頂く分、ご注文のステーキに、ご飯とお味噌汁をご一緒にお持ちしましょうか」
出張でアフリカに3週間滞在していた、和食希望の若い男性客へ、この一言と提案により、和食が足りないトラブルを切り抜けた伝説の客室乗務員(以下CA)大宅邦子さん。
ANAの客室乗務員として初めて65歳定年前勤め上げた大宅邦子さんのCAとしてのおもてなし。
お客様の目線になった交渉と提案
いつかのファーストクラスでのこと。全員が和食のご希望で、1食足りなくなってしまったことがありました。
私がお願いしたのは一番若い男性のお客様でした。
「大変申し訳ございませんが、ご年配の方に譲っていたでけないでしょうか?」洋食で我慢していただく分、
「ご注文のステーキにご飯とお味噌汁をご一緒にお持ちしましょうか。」この言葉と提案により、
クレームをなることなくトラブルをい切り抜けました。
若い男性客に対し、「ご年配のために」という言葉を選び、アフリカに3週間滞在していたという事実から、
日本食を欲していることを汲み取り、できる限りの寄り添いを見せた大宅邦子さん。
お食事サービスはCAの永遠の課題です。腕の見せどころでもありますが、クレームが生じやすいのが事実です。
足りなくなるなら多めに搭載すればいいと思われるかもしれませんが、そのコストは航空運賃に上乗せされ、
お客様に跳ね返ります。そう考えると、気持ちをよく理解した上でご協力いただけるのが一番だと考えています。
クレームは相手に信用された証
直接クレームを言ってくださるということは、この人なら話が通じるはずだと”信用”してくださった証です。クレームは、ただ謝ればいいというものではありせんし、ご要望を全て受け入れられるわけでもありません。できること、できないこと、お詫びすべきこと、ご理解いただくこと、一つ一つを交通整理した上で納得していただくしかありません。交通整理をしながら話し合えば、またご搭乗くださいます。
20年前のロンドン便で、ご夫婦から食事が遅いというクレームを頂いたことがあります。2つある通路からお食事のサービスをしていたのですが、配膳の時間差が大きく、一緒に食事ができなかったというのです。原因は左右のカート数の差ですが、謝罪をする際、「時間差が出ないようにカートを増やしたり、CAを増やしたりします。」など、口先だけのできない約束をするのも不誠実です。問題は、お連れ様同士が一緒に食事が出来ないであろう事を、CAが気付き、2人分を同じ側から渡せれば、何事もなく召し上がっていたでしょう。そこでまず、「気遣いが足りずに申し訳ありませんでした。今後、こういったことのないように反省会で取り上げ、検討します」とお約束しました。最終的にご夫婦には納得して頂き、マイレージ会員のお申し込みまでしてくださいました。
地味な「根っこ」のサービスが「花」のサービスを生む
サービスやおもてなしのためにコミュニケーションをよくとること、実際にサービスを提供する時間、それらは全てプラスアルファの行為であり、サービスの「花」の部分です。それに集中できているのは、裏で汚れたトイレを掃除していたり、お水のサービスをするといった地味な「根っこ」の部分を仲間がしてくれているからです。根っこのサービスをができる人は、きっと枝を伸ばし、花を咲かせます。信頼を得ていく人は地道に頑張っている人、年齢を重ねてもそうでありたいですし、目立たなくても誠実な若い人を、認める目も持ちたいと願っています。
ANA客室乗務員で65歳定年まで現役で飛び続けたレジェンド
1974年、20歳で入社して以来、ANA一筋で定年まで客室乗務員として世界の空を飛んできた大宅邦子さん。ANA国際線立ち上げのプロジェクトに最少年で抜擢され、主に国際線のファーストクラスを担当しながら、全体の責任者として最上級のおもてなしを提供し続けてきました。丁寧に、手を抜かず、いつでも指差し確認の初心を忘れない姿勢で45年間のCA生活を続けてきました。
「欲しいものより必要なものを買う」「幼児から年長者まで同じように接する人との付き合い方」など、仕事を超えた清潔な生き方そのものがANA伝説として8000人の後輩CAに慕われています。
※本稿は、大宅邦子『新版 選んだ道が、一番いい道』の一部を再編集したものです。


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